2012年11月14日
8.ドイツの人気テレビ番組「ほんとうにほんとうの人生」 その2
「ほんとうにほんとうの人生」第1回目を読む
コメディ俳優オリ・ディットリッヒが演じる、失業者ディトチェ。赤いトレーナーパンツにサンダル、薄汚れたいつもの青いシマ模様のガウンをはおって、インゴの経営するインビス(軽食店)を訪ねます。
ドイツでは仕事とプライベートはきっちりと分かれているところがあり、仕事帰りに同僚と飲みにいくような雰囲気や、営業のためにお客さんと飲みにいくような公私を共にした関係づくりはありません。では、どんな風にして飲むのか? だれでもあるということではないですが行きつけの飲み屋があります。一人で行っても、同じように行きつけにしている人たちと飲んだり話したりして、帰りたい時にかえるというような場所です。行きつけの飲み屋のことを「シュタムティッシュ」(=集まる机)と呼び、シュタムティッシュに集う人たちを「シュタムガスト」(=集まるお客)と呼びます。
ディトチェは、おそらくインゴの経営するインビス(軽食店)のシュタムガストなのでしょう。ディトチェがすでに酔っぱらった調子でインゴの店に行くと、インゴは「また来たか」という感じで何も言われずとも瓶ビールを差し出します。代わりにディトチェが差し出すのは、アルディーというドイツ全土に広がる格安スーパーのビニール袋。瓶のぶつかり合う音がするので、そのビニール袋の中に空のビール瓶が入っているのが分かります。それらの瓶は、おそらく道ばたで拾って来たもの。ドイツは瓶やペットボトルにリファンドがついており、空き瓶や使用済みのペットボトルを集めてスーパーなどに持って行くとお金が返ってくるのです。失業者やホームレスの中にはその回収作業をなりわいとしている人もいて、街の中にあるゴミ箱をあさっている人も目につきます。ディトチェもおそらく集めた瓶をインゴに渡しているのでしょう。その代わりに再びインゴがディトチェにアルディーの袋を返す時は、リファンドの代わりの新しいビール瓶がはいっているようです。お金のやりとりは彼らの中ではまったくありません。
この番組の放送局「WDR」とはWestdeutsch Rundfunk(西ドイツ放送)という名称からきたもので、ノルトライン・ヴェストファーフェン州の地方局となります。この州にはルール工業地帯などがあり、デュッセルドルフ、ケルン、エッセン、ドルトムントなどの大都市が含まれています。ところが、このインビスは「エッペンドルファー グリル ステーション ハンブルク」というところでハンブルクにある実際の軽食店を撮影に使っており、放送日の時間になったら30分間のライブ放送が始まります。昔のよき時間を思い出させるようなセピア色の画面。話されることは今話題の事件やスポーツ・芸能界の話などトップトピックスなのに画面はセピア色なので、なんだかなつかしの映像を放送しているような妙な錯覚が生まれます。インビス内に固定カメラが5つあり、ありおそらく外で編集の人がやはりライブでカメラにQを出しているのでしょう。ライブとは思えないぐらい絶妙なカメラワークで生放送とは感じさせず、そして演技とは感じさせない造りです。
最初、私がこの番組を偶然見た時、プライベートビデオがまぎれて放送されているのかと思ってしまったぐらいでした。
ディトチェが今晩もインゴのお店を訪ねます。
▼動画はこちらからご覧になれます
http://www.wdr.de/tv/comedy/sendungen/fernsehen/dittsche_das_wirklich_wahre_leben/index.jsp?mid=577352
《賢いメルケル》
D= ディトチェ
I =インゴ
D/インゴ、インゴあれ見たかあれ、秘密の数字だよ。ひ・み・つ の す・う・じ。
I /え、なんだよ。
D/新聞にのってたんだけど。インゴ、見た?
I /え、どのこと言ってるの?
D/大きく取り上げられていたじゃないか、あれ見てないの?
写真が普段よりも拡大されて取り上げていたのだけれど、気づかなかった?
あれは国会議事堂の秘密の数字が明かされている写真だったよ。
I / 秘密の数字?
D/ うんうん。本当に気づかなかったのインゴ?
指でサインが示されていたのだけれど。
本当に気づかなかった?
I / いや。どうゆうこと?
D/ メルケルとヴェスターヴェレ(現外務大臣)の握手している写真のことだよ。
あれは秘密の数字を示しているよ。
I / へ?
D/ 秘密の数字、指で示しているんだよ。
国会議事堂の秘密の数字だよ。2本の指でさ。
I / 2本の指?
D/ そう。2本の指で。
メルケルが親指をそのままに人差し指をまげたところに鉛筆をはさんで、
こう、長い鉛筆を人差し指をまるめたところにさすようにして持ちながら中指と薬指を
差し出して、その2本の指でヴェスターヴェレと握手をしようとしていたんだよ。
こういう感じで。(ディトチェやってみせる)
(間があいて)
D/ こういう感じで!
インゴ、おれがメルケルで、おまえがヴェスターヴェレ!
インゴ、ちょっとやってみせるから握手しようとしてよ。
I / なんだよぉ。いやだよ。
D/ ちょっと、手を出してみてよ!いいから!
I / ちゃんと握手しようよ。どうすればいいんだよ。(手を差し出す)
D/ こういう感じで。
ヴェスターヴェレが、その変な具合に鉛筆がささって中指と薬指しか
出せなかったメルケルの2本の指をこう、にぎったんだよ。
I / はは~ん。そいういう感じか。今わかったよ。
D/ 変な風に鉛筆がささっているから、あれは冗談でやっているのかと思ったのだけれど、
多分あれは違うね。なんかあると思ったんだよね。
I / どういうことだよ。
D/ インゴ、あのな。例えばスポーツとかさ、バレーボールとかね。
I / あー。指でサインすること?
D/ そうそう。相手にわからないようにバレーボールとかサッカーとか仲間内でサインを出し合うじゃない。
I / あぁ。例えば後ろに手をまわして指でサインを送るとか。
D/ そうそう。フリーキックとかでもなんか指とか手で分かるように合図するとか、いろいろバリエーションがあるじゃない。
腕をあげたり、ふったりすることもあるし。あれらは単なるサイン以上に意味があるよね。
それでさ。そのメルケルの話に戻るのだけれど。
I / うん。
D/ 親指がこう普通にまっすぐになっていて人差し指が曲がっていて長い鉛筆がそこにささっていて
それで中指と薬指の2本をヴェスターヴェレに差し出していたじゃない。
あれはどういう意味かっていうと。インゴ分かる?
I / へ?
D/ あれはな。メルケルが彼に『いち、てん、に』、1.2%っていうメッセージを送ってたんだよ。
I / へー。鉛筆が『いち』かい?
D/ いやちがうよ。『てん』の方だよ。
親指が『いち』で鉛筆が『てん』、それで中指と薬指の2本が『に』を意味してたんだよ。
これは予言的な言葉だよ!言葉なしで伝える、すごいと思わないかインゴ!!
I / あはは。。あはは。。。
D/ メルケルは賢いよ!!賢いったらありゃしないよ!!
そばでこの二人の会話を聞いていてなんにも動かない役、通称シルタードローテ(亀)と呼ばれる常連客の、「うるさい、俺はもう仕事おわったんだよ!!」という言葉で常に番組は終わりを迎えます。
それぞれの登場人物のほんとうにほんとうの人生については次回に。
≫この続きを読む
◆このコラムの他の記事を読む
(1)ドイツ版、国民的アイドルは誰ですの?
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≫その2
≫その3
(2)「借金からの脱出」借金解決請負人-ペーター・ツヴィーガート
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(6)黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」
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≫その3
(7)政治家シリーズ
≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏
≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
コメディ俳優オリ・ディットリッヒが演じる、失業者ディトチェ。赤いトレーナーパンツにサンダル、薄汚れたいつもの青いシマ模様のガウンをはおって、インゴの経営するインビス(軽食店)を訪ねます。
ドイツでは仕事とプライベートはきっちりと分かれているところがあり、仕事帰りに同僚と飲みにいくような雰囲気や、営業のためにお客さんと飲みにいくような公私を共にした関係づくりはありません。では、どんな風にして飲むのか? だれでもあるということではないですが行きつけの飲み屋があります。一人で行っても、同じように行きつけにしている人たちと飲んだり話したりして、帰りたい時にかえるというような場所です。行きつけの飲み屋のことを「シュタムティッシュ」(=集まる机)と呼び、シュタムティッシュに集う人たちを「シュタムガスト」(=集まるお客)と呼びます。
ディトチェは、おそらくインゴの経営するインビス(軽食店)のシュタムガストなのでしょう。ディトチェがすでに酔っぱらった調子でインゴの店に行くと、インゴは「また来たか」という感じで何も言われずとも瓶ビールを差し出します。代わりにディトチェが差し出すのは、アルディーというドイツ全土に広がる格安スーパーのビニール袋。瓶のぶつかり合う音がするので、そのビニール袋の中に空のビール瓶が入っているのが分かります。それらの瓶は、おそらく道ばたで拾って来たもの。ドイツは瓶やペットボトルにリファンドがついており、空き瓶や使用済みのペットボトルを集めてスーパーなどに持って行くとお金が返ってくるのです。失業者やホームレスの中にはその回収作業をなりわいとしている人もいて、街の中にあるゴミ箱をあさっている人も目につきます。ディトチェもおそらく集めた瓶をインゴに渡しているのでしょう。その代わりに再びインゴがディトチェにアルディーの袋を返す時は、リファンドの代わりの新しいビール瓶がはいっているようです。お金のやりとりは彼らの中ではまったくありません。
この番組の放送局「WDR」とはWestdeutsch Rundfunk(西ドイツ放送)という名称からきたもので、ノルトライン・ヴェストファーフェン州の地方局となります。この州にはルール工業地帯などがあり、デュッセルドルフ、ケルン、エッセン、ドルトムントなどの大都市が含まれています。ところが、このインビスは「エッペンドルファー グリル ステーション ハンブルク」というところでハンブルクにある実際の軽食店を撮影に使っており、放送日の時間になったら30分間のライブ放送が始まります。昔のよき時間を思い出させるようなセピア色の画面。話されることは今話題の事件やスポーツ・芸能界の話などトップトピックスなのに画面はセピア色なので、なんだかなつかしの映像を放送しているような妙な錯覚が生まれます。インビス内に固定カメラが5つあり、ありおそらく外で編集の人がやはりライブでカメラにQを出しているのでしょう。ライブとは思えないぐらい絶妙なカメラワークで生放送とは感じさせず、そして演技とは感じさせない造りです。
最初、私がこの番組を偶然見た時、プライベートビデオがまぎれて放送されているのかと思ってしまったぐらいでした。
ディトチェが今晩もインゴのお店を訪ねます。
▼動画はこちらからご覧になれます
http://www.wdr.de/tv/comedy/sendungen/fernsehen/dittsche_das_wirklich_wahre_leben/index.jsp?mid=577352
《賢いメルケル》
D= ディトチェ
I =インゴ
D/インゴ、インゴあれ見たかあれ、秘密の数字だよ。ひ・み・つ の す・う・じ。
I /え、なんだよ。
D/新聞にのってたんだけど。インゴ、見た?
I /え、どのこと言ってるの?
D/大きく取り上げられていたじゃないか、あれ見てないの?
写真が普段よりも拡大されて取り上げていたのだけれど、気づかなかった?
あれは国会議事堂の秘密の数字が明かされている写真だったよ。
I / 秘密の数字?
D/ うんうん。本当に気づかなかったのインゴ?
指でサインが示されていたのだけれど。
本当に気づかなかった?
I / いや。どうゆうこと?
D/ メルケルとヴェスターヴェレ(現外務大臣)の握手している写真のことだよ。
あれは秘密の数字を示しているよ。
I / へ?
D/ 秘密の数字、指で示しているんだよ。
国会議事堂の秘密の数字だよ。2本の指でさ。
I / 2本の指?
D/ そう。2本の指で。
メルケルが親指をそのままに人差し指をまげたところに鉛筆をはさんで、
こう、長い鉛筆を人差し指をまるめたところにさすようにして持ちながら中指と薬指を
差し出して、その2本の指でヴェスターヴェレと握手をしようとしていたんだよ。
こういう感じで。(ディトチェやってみせる)
(間があいて)
D/ こういう感じで!
インゴ、おれがメルケルで、おまえがヴェスターヴェレ!
インゴ、ちょっとやってみせるから握手しようとしてよ。
I / なんだよぉ。いやだよ。
D/ ちょっと、手を出してみてよ!いいから!
I / ちゃんと握手しようよ。どうすればいいんだよ。(手を差し出す)
D/ こういう感じで。
ヴェスターヴェレが、その変な具合に鉛筆がささって中指と薬指しか
出せなかったメルケルの2本の指をこう、にぎったんだよ。
I / はは~ん。そいういう感じか。今わかったよ。
D/ 変な風に鉛筆がささっているから、あれは冗談でやっているのかと思ったのだけれど、
多分あれは違うね。なんかあると思ったんだよね。
I / どういうことだよ。
D/ インゴ、あのな。例えばスポーツとかさ、バレーボールとかね。
I / あー。指でサインすること?
D/ そうそう。相手にわからないようにバレーボールとかサッカーとか仲間内でサインを出し合うじゃない。
I / あぁ。例えば後ろに手をまわして指でサインを送るとか。
D/ そうそう。フリーキックとかでもなんか指とか手で分かるように合図するとか、いろいろバリエーションがあるじゃない。
腕をあげたり、ふったりすることもあるし。あれらは単なるサイン以上に意味があるよね。
それでさ。そのメルケルの話に戻るのだけれど。
I / うん。
D/ 親指がこう普通にまっすぐになっていて人差し指が曲がっていて長い鉛筆がそこにささっていて
それで中指と薬指の2本をヴェスターヴェレに差し出していたじゃない。
あれはどういう意味かっていうと。インゴ分かる?
I / へ?
D/ あれはな。メルケルが彼に『いち、てん、に』、1.2%っていうメッセージを送ってたんだよ。
I / へー。鉛筆が『いち』かい?
D/ いやちがうよ。『てん』の方だよ。
親指が『いち』で鉛筆が『てん』、それで中指と薬指の2本が『に』を意味してたんだよ。
これは予言的な言葉だよ!言葉なしで伝える、すごいと思わないかインゴ!!
I / あはは。。あはは。。。
D/ メルケルは賢いよ!!賢いったらありゃしないよ!!
そばでこの二人の会話を聞いていてなんにも動かない役、通称シルタードローテ(亀)と呼ばれる常連客の、「うるさい、俺はもう仕事おわったんだよ!!」という言葉で常に番組は終わりを迎えます。
それぞれの登場人物のほんとうにほんとうの人生については次回に。
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≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
Posted by eしずおかコラム at 12:00