2013年04月03日
17.黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」その1
ドイツのテレビ局、RTL局で人気のあったリアル番組『ディ・スーパーナニー』。
「ナニー(nanny)」とは、日本語の「乳母」や「ばあや」という意味にあたります。そうと聞くと、ひと昔前の裕福な家庭における母親代わりの年配の女性をイメージしますが、この番組のナニーは細面、長身、黒い長髪というとっても可愛らしいお姉さん風。名前はカタリーナ・ザールフランク、通称カティアであります。
カティアは、番組に寄せられた「うちの子は扱いに困る」という相談を受けて、選ばれた家族を訪問します。そして、各家庭にある個々の問題を元に、子どもとの関係や接し方に対するアドバイスをしていくという番組。カティアは招待を受けた家庭に入り、最初はだまって家庭内の様子を見ていきます。一通りその様子を見聞きしたあとで、各家庭の大人に子どもとの関わり方についてのアドバイスをしたり、実践指導をします。番組に寄せられる相談内容は「子どもが言う事を聞かなくてどうしようもない」「子どもが手に負えない」といったものがほとんど。「子どもが悪い」という大人の主張からことが始まっていくのですが、カティアが洞察力や分析力、経験を駆使して最終的にあぶり出すものは、実は夫婦関係や、夫婦の父親・母親との問題。大人になにかのストレスの起因があることを突き止め、子どもとの関係は大人が努力しなければ変わらないということを伝えます。
ドイツでは他の先進国同様(というか他国の中でも一番高いのではと言われていますが)、離婚率が高く、ドイツ人同士の夫婦だと離婚率は50%を超えているそう。この数値は結婚している者同士に限られたもので、もちろん結婚しないパートナーシップというものも存在し、子どもを持つ家庭がそれぞれの道をいくという割合がもっと高くなっていると推測されます。また、あるいはシングルマザーで子どもを育てる人が160万人いるという統計もあります。当然、夫婦それぞれが子どもを持ちながら再婚するパッチワークファミリーもあり、ドイツの家族形態は実に個性的で、かなりのバリエーションに飛んでいます。
2004年から2009年まで、この番組『ディ・スーパーナニー』は145回にわたって放送され、ディプロームペダゴギン(教育学修士)のカティアはいろいろな子どもがいる家族を訪ねてきました。ドイツ的だなと思うのは、番組の冒頭で「ディプロームペダゴギン(教育学修士)であるカティアが参ります」というくだり。「ディプローム」とは「修士」の意味で、教育学を大学で勉強したことをわざわざ番組で強調するのは、ドイツ流かと。ドイツでは、大学であれ職業訓練校であれ場所は問わないけれども、勉強した科目を肩書きにつける習慣があります。例えば名刺にも会社における自分の地位、支店長、営業などの記載の他に「ディプロームなになに」として修了した科目の号があるのをよく見ます。日本では最初に会った時に年齢や出身を聞かれるのと同じぐらい、あなたは何の専門家なのかということを聞かれているような気がします。おそらく番組の意図としては「普通のナニーじゃない、正真正銘の専門家ナニーだよ」ということを言いたいのだと思われますが。
さて、カティアの訪問先の子どもは赤ちゃんから思春期を迎える子ども、歳の差のある兄弟や姉妹、一人っ子から多くの兄弟、血のつながってない兄弟や姉妹などさまざま。
カメラチームはカティアが訪問する家に来る前にこの家族の日常を撮影しており、視聴者はまずこれらの家の様子を先に見ることとなります。何かのストレスを溜まらせた親が子どもに当たり散らしたり、言い合いをしたり、あるいは、子どもが暴走するのを「手のほどこしようがない」とただ茫然と眺めていたり、大人が子どもの手やお尻を叩いたりする姿が映し出されます。これらは、普段、家庭外の誰にも知られずに閉じられた空間で起こっていることであり、これほど怖い事はないとカティアは言います。
「ハロー、カティア・ザールフランクです」といって玄関口に立つ、細面、黒髪のカティアはとても華奢な女性。番組が放送されていた頃は30代半ばから後半。彼女はだいたい黒っぽい、あるいは自分を目立たせない洋服を着ていることが多かったです。おそらく、自分が黒子のような役割であることをわかっていてそうしているのではないかと思います。特に、訪問初日は家族の様子を最初に見せてもらうので、家族も緊張気味。しかし本当の家族の姿を見せてもらえないと彼女の仕事も始まらないので、挨拶もそこそこに「私のことは背景だと思って、普段通りにして」と後ろの方に引き下がっていきます。そこで目にした光景から、彼女が分析したり、よいコーチの仕方を考えたりするのですが、親が子どもに対して厳しいたたきや叱りが続くと、親の手をとめ「背景から悪いのだけれど、もう限度を超えているので」と間に入り、初日から基本的なことを親に諭します。「昔の子どもの育て方では、たたいたり、手をあげてしつけをするのは普通でしたけれど、今では禁止されていることを知っていますか?」 この言葉は、何度番組の中で聞いたかわからないぐらい繰り返される言葉です。
この訪問から約1週間で家族の関係が劇的に変わるかどうか、番組はこの一部始終を追って行きます。
つづきは次回に。
カタリーナ・ザールフランクのホームページはこちら。
http://katiasaalfrank.jimdo.com/
≫この続きを読む
◆このコラムの他の記事を読む
(1)ドイツ版、国民的アイドルは誰ですの?
≫その1
≫その2
≫その3
(2)「借金からの脱出」借金解決請負人-ペーター・ツヴィーガート
≫その1
≫その2
≫その3
(3)ドイツの人気テレビ番組「ほんとうにほんとうの人生」
≫その1
≫その2
≫その3
(4)売れないレストラン再建!独TV番組「レストランテスター」
≫その1
≫その2
≫その3
(5)深夜のトーク番組「ドミアン」 ハロー、こちらドミアン!
≫その1
≫その2
≫その3
(6)黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」
≫その1
≫その2
≫その3
(7)政治家シリーズ
≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏
≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
「ナニー(nanny)」とは、日本語の「乳母」や「ばあや」という意味にあたります。そうと聞くと、ひと昔前の裕福な家庭における母親代わりの年配の女性をイメージしますが、この番組のナニーは細面、長身、黒い長髪というとっても可愛らしいお姉さん風。名前はカタリーナ・ザールフランク、通称カティアであります。
カティアは、番組に寄せられた「うちの子は扱いに困る」という相談を受けて、選ばれた家族を訪問します。そして、各家庭にある個々の問題を元に、子どもとの関係や接し方に対するアドバイスをしていくという番組。カティアは招待を受けた家庭に入り、最初はだまって家庭内の様子を見ていきます。一通りその様子を見聞きしたあとで、各家庭の大人に子どもとの関わり方についてのアドバイスをしたり、実践指導をします。番組に寄せられる相談内容は「子どもが言う事を聞かなくてどうしようもない」「子どもが手に負えない」といったものがほとんど。「子どもが悪い」という大人の主張からことが始まっていくのですが、カティアが洞察力や分析力、経験を駆使して最終的にあぶり出すものは、実は夫婦関係や、夫婦の父親・母親との問題。大人になにかのストレスの起因があることを突き止め、子どもとの関係は大人が努力しなければ変わらないということを伝えます。
ドイツでは他の先進国同様(というか他国の中でも一番高いのではと言われていますが)、離婚率が高く、ドイツ人同士の夫婦だと離婚率は50%を超えているそう。この数値は結婚している者同士に限られたもので、もちろん結婚しないパートナーシップというものも存在し、子どもを持つ家庭がそれぞれの道をいくという割合がもっと高くなっていると推測されます。また、あるいはシングルマザーで子どもを育てる人が160万人いるという統計もあります。当然、夫婦それぞれが子どもを持ちながら再婚するパッチワークファミリーもあり、ドイツの家族形態は実に個性的で、かなりのバリエーションに飛んでいます。
2004年から2009年まで、この番組『ディ・スーパーナニー』は145回にわたって放送され、ディプロームペダゴギン(教育学修士)のカティアはいろいろな子どもがいる家族を訪ねてきました。ドイツ的だなと思うのは、番組の冒頭で「ディプロームペダゴギン(教育学修士)であるカティアが参ります」というくだり。「ディプローム」とは「修士」の意味で、教育学を大学で勉強したことをわざわざ番組で強調するのは、ドイツ流かと。ドイツでは、大学であれ職業訓練校であれ場所は問わないけれども、勉強した科目を肩書きにつける習慣があります。例えば名刺にも会社における自分の地位、支店長、営業などの記載の他に「ディプロームなになに」として修了した科目の号があるのをよく見ます。日本では最初に会った時に年齢や出身を聞かれるのと同じぐらい、あなたは何の専門家なのかということを聞かれているような気がします。おそらく番組の意図としては「普通のナニーじゃない、正真正銘の専門家ナニーだよ」ということを言いたいのだと思われますが。
さて、カティアの訪問先の子どもは赤ちゃんから思春期を迎える子ども、歳の差のある兄弟や姉妹、一人っ子から多くの兄弟、血のつながってない兄弟や姉妹などさまざま。
カメラチームはカティアが訪問する家に来る前にこの家族の日常を撮影しており、視聴者はまずこれらの家の様子を先に見ることとなります。何かのストレスを溜まらせた親が子どもに当たり散らしたり、言い合いをしたり、あるいは、子どもが暴走するのを「手のほどこしようがない」とただ茫然と眺めていたり、大人が子どもの手やお尻を叩いたりする姿が映し出されます。これらは、普段、家庭外の誰にも知られずに閉じられた空間で起こっていることであり、これほど怖い事はないとカティアは言います。
「ハロー、カティア・ザールフランクです」といって玄関口に立つ、細面、黒髪のカティアはとても華奢な女性。番組が放送されていた頃は30代半ばから後半。彼女はだいたい黒っぽい、あるいは自分を目立たせない洋服を着ていることが多かったです。おそらく、自分が黒子のような役割であることをわかっていてそうしているのではないかと思います。特に、訪問初日は家族の様子を最初に見せてもらうので、家族も緊張気味。しかし本当の家族の姿を見せてもらえないと彼女の仕事も始まらないので、挨拶もそこそこに「私のことは背景だと思って、普段通りにして」と後ろの方に引き下がっていきます。そこで目にした光景から、彼女が分析したり、よいコーチの仕方を考えたりするのですが、親が子どもに対して厳しいたたきや叱りが続くと、親の手をとめ「背景から悪いのだけれど、もう限度を超えているので」と間に入り、初日から基本的なことを親に諭します。「昔の子どもの育て方では、たたいたり、手をあげてしつけをするのは普通でしたけれど、今では禁止されていることを知っていますか?」 この言葉は、何度番組の中で聞いたかわからないぐらい繰り返される言葉です。
この訪問から約1週間で家族の関係が劇的に変わるかどうか、番組はこの一部始終を追って行きます。
つづきは次回に。
カタリーナ・ザールフランクのホームページはこちら。
http://katiasaalfrank.jimdo.com/
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≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏
≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
Posted by eしずおかコラム at 12:00