2013年06月05日
20.「ドイツの母」 政治家シリーズ1
前回までのお話、スーパーナニー。ドイツで放送されたこの番組の元ネタは、実はイギリスの番組なのです。イギリスの番組「スーパーナニー」は、自国を飛び出してアメリカの家庭にまで訪問しています。また、フランスでも同様の番組ができているのをみると、ヨーロッパやアメリカといういわゆる先進国では、家族や子育てにおいて同じような課題を抱えているのでは・・・と思います。
さてさて、日本とドイツを比べていておや?と思うことが多々あるのですが、その中でも政治の世界でのおや!は意外と多いです。一つ一つあげていったらキリがないですし、文化背景が違っているので表面に現れたものを取りざたしたとしてもどちらがいいのかというのは判断しづらいと思います。それでも、今回から3回にわたり政治の世界での人物にスポットをあて、このおや!がどのくらいの規模であるのか表現できたらと思います。
ドイツの省庁は14あり、外務省、内務省、財政省、司法省などで構成されています。この14の省の中に、家族・高齢者・婦人・青少年省という省(通称家族省)があります。機関の内容の質は違いますが、外交や経済、そして法と同じように国が成り立つ重要な柱の一つになっているのだと理解ができます。日本の省庁は1府12省。ドイツの家族・高齢者・婦人・青少年省と同じような役割のものを探すと、内閣府の内部部局として男女共同参画局、そして特別機関として少子化対策会議、高齢社会対策会議という組織があり、担当大臣がいます。この比較をみるとお分かりだと思いますが、ドイツでは家庭環境に関する政策が政府の機関として「省」となっているのに、日本ではこれらの機関は「省」という形体にはなっていません。
今のドイツの家族省の大臣は若干35歳の女性大臣、クリスティナ・シュレーダー氏です。
彼女が大臣になったのは32歳の時で、最年少の閣僚でありました。就任当時は結婚していなかったものの、その後同じ党に所属する政治家オーレ・シュレーダーと結婚し、大臣就任中に一児を出産した経歴の持ち主です。ドイツも少子化がすすみ、この家族省の課題の一つは少子化対策でもあったので、大臣自らそれを一つ解決したということにもなると思います。就任中に産休をとり、6週間の産休中は当時の教育科学大臣とその他政治家たちが彼女の代行を勤め、産休後は大臣の職にもどるということに。働いている省が家庭のことを扱っているだけになにかと彼女のプライベートや家庭観が気になるところ。しかし彼女のプライベートは一切公開されず、最近は次期閣僚に残る事なく一代議士でいたいと発表しています。やはり子供を抱えて母親が責任ある仕事につくのは難しいのでしょうか。なんといってもシュレーダー氏は前任のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏と比べられることが多く、これも彼女にとっては悩みの一つでありましょう。
フォン・デア・ライエン氏は、2005年から2009年にかけ第一次メルケル内閣でこの家族・高齢者・婦人・青少年省大臣に着任し、現在は社会省の大臣を務めています。
彼女が名を成すようになったのは、2004年のCDUのデュッセルドルフでの党大会で、「私の名前はウルズラ・フォン・デア・ライエンです。ニーダーザクセン州の社会相を勤めております。夫との間に7人の子供がいます。」という言葉でした。彼女の父親はニーダーザクセン州の州首相を勤めたこともある政治家でしたので、州の中では知らない人はいないということであったでしょうけれど、全国にフォン・デア・ライエン氏の存在が知らされたのはこの党大会での自身からの言葉でした。おそらく誰もが言葉を疑ったに違いありません。「子供が7人!?」。それでいて州の社会相まで勤めあげられる彼女の才能、夫の理解、環境、そして家事と仕事の両立はどうなっているのか、そしてなんといってもどうやって7人の子供達をまとめているか、余計ですがまたどうして体型を維持できるか、などさまざまな疑問が浮かんでいます。
夫は医学教授でもあり経営者でもあります。また彼女も医師の博士号を持っています。社会的な地位と才能、そして大家族にみまわれ羨望の眼差しもある中、彼女の存在は敵をつくるのも容易でした。とにかく彼女の存在自体が左系の人にも右系の人にも気に入らないところがあったのです。左の人からは、生まれながらにして良家であるというやっかみと、右の人からは7人の子供の上キャリアもあり、その上さらに幸せそうだという妬みありました。そんな嫌悪の念にもフォン・デア・ライエン氏は余裕をもって答えます。「そうですね古い格言にありましたね。同情は味わわされる。嫉妬は獲得する、と。」
彼女自身が最初の子供を出産したのは29歳の時でした。彼女はそれこそ医者として新人でこれから仕事が出来るという時だったので、妊娠したときは仕事ができなくなることを残念に思ったそうです。それに子供がいて仕事をつづけると出られない会議があったり、同僚に気を使ったりとするので仕事をやめることに。一番の思いは、子供を自分たちが作ったのだからその子供達をどうして仕事のためにだれかに預けなければならないのだろう、ということだったそうです。5人の子供(その内1組の双子あり)を6年のうちに生み、子供を問題としてではなくある現象としてとらえて望んだそうです。そして、子供がいるからなにもできないのではなく、子供があることでなにかよい経験をもつ人物だととらえられて仕事があると思ったそうです。
その後、ゆっくりとではありますが、図書館などに通い専門性のある医学について勉強し、インターネットで講師ができる職につき、まさに子供を膝にかかえながら仕事をしていたといいます。後には父親と同じような政治家になる道に進む事になるのですが、メルケル政権での家族・高齢者・婦人・青少年省、大臣という地位は彼女が7人の子持ちだったから獲得したものだったでしょう。
フォン・デア・ライエン氏は家庭省の在任中に、児童ポルノのインターネット規制の強化について強く訴えたり、保育所の増大を訴えたりしました。また制度改正としては1986年からあった養育補助金制度を廃止して2007年より新しく、子供手当を導入しました。これは親に政府から子供が生まれてから12ヶ月支給される援助金で親の収入によって額が違うものです。彼女は時に「ドイツの母」と言われるくらい、プライベートでもそして公的にも「母」として頂点にぼりつめていった人です。
◆その他の「ドイツの政治家」はこちら
≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの他の記事を読む
(1)ドイツ版、国民的アイドルは誰ですの?

≫その1
≫その2
≫その3
(2)「借金からの脱出」借金解決請負人-ペーター・ツヴィーガート

≫その1
≫その2
≫その3
(3)ドイツの人気テレビ番組「ほんとうにほんとうの人生」

≫その1
≫その2
≫その3
(4)売れないレストラン再建!独TV番組「レストランテスター」
≫その1
≫その2
≫その3
(5)深夜のトーク番組「ドミアン」 ハロー、こちらドミアン!

≫その1
≫その2
≫その3
(6)黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」

≫その1
≫その2
≫その3
(7)政治家シリーズ

≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏

≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏

≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
さてさて、日本とドイツを比べていておや?と思うことが多々あるのですが、その中でも政治の世界でのおや!は意外と多いです。一つ一つあげていったらキリがないですし、文化背景が違っているので表面に現れたものを取りざたしたとしてもどちらがいいのかというのは判断しづらいと思います。それでも、今回から3回にわたり政治の世界での人物にスポットをあて、このおや!がどのくらいの規模であるのか表現できたらと思います。
ドイツの省庁は14あり、外務省、内務省、財政省、司法省などで構成されています。この14の省の中に、家族・高齢者・婦人・青少年省という省(通称家族省)があります。機関の内容の質は違いますが、外交や経済、そして法と同じように国が成り立つ重要な柱の一つになっているのだと理解ができます。日本の省庁は1府12省。ドイツの家族・高齢者・婦人・青少年省と同じような役割のものを探すと、内閣府の内部部局として男女共同参画局、そして特別機関として少子化対策会議、高齢社会対策会議という組織があり、担当大臣がいます。この比較をみるとお分かりだと思いますが、ドイツでは家庭環境に関する政策が政府の機関として「省」となっているのに、日本ではこれらの機関は「省」という形体にはなっていません。
今のドイツの家族省の大臣は若干35歳の女性大臣、クリスティナ・シュレーダー氏です。
彼女が大臣になったのは32歳の時で、最年少の閣僚でありました。就任当時は結婚していなかったものの、その後同じ党に所属する政治家オーレ・シュレーダーと結婚し、大臣就任中に一児を出産した経歴の持ち主です。ドイツも少子化がすすみ、この家族省の課題の一つは少子化対策でもあったので、大臣自らそれを一つ解決したということにもなると思います。就任中に産休をとり、6週間の産休中は当時の教育科学大臣とその他政治家たちが彼女の代行を勤め、産休後は大臣の職にもどるということに。働いている省が家庭のことを扱っているだけになにかと彼女のプライベートや家庭観が気になるところ。しかし彼女のプライベートは一切公開されず、最近は次期閣僚に残る事なく一代議士でいたいと発表しています。やはり子供を抱えて母親が責任ある仕事につくのは難しいのでしょうか。なんといってもシュレーダー氏は前任のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏と比べられることが多く、これも彼女にとっては悩みの一つでありましょう。
フォン・デア・ライエン氏は、2005年から2009年にかけ第一次メルケル内閣でこの家族・高齢者・婦人・青少年省大臣に着任し、現在は社会省の大臣を務めています。
彼女が名を成すようになったのは、2004年のCDUのデュッセルドルフでの党大会で、「私の名前はウルズラ・フォン・デア・ライエンです。ニーダーザクセン州の社会相を勤めております。夫との間に7人の子供がいます。」という言葉でした。彼女の父親はニーダーザクセン州の州首相を勤めたこともある政治家でしたので、州の中では知らない人はいないということであったでしょうけれど、全国にフォン・デア・ライエン氏の存在が知らされたのはこの党大会での自身からの言葉でした。おそらく誰もが言葉を疑ったに違いありません。「子供が7人!?」。それでいて州の社会相まで勤めあげられる彼女の才能、夫の理解、環境、そして家事と仕事の両立はどうなっているのか、そしてなんといってもどうやって7人の子供達をまとめているか、余計ですがまたどうして体型を維持できるか、などさまざまな疑問が浮かんでいます。
夫は医学教授でもあり経営者でもあります。また彼女も医師の博士号を持っています。社会的な地位と才能、そして大家族にみまわれ羨望の眼差しもある中、彼女の存在は敵をつくるのも容易でした。とにかく彼女の存在自体が左系の人にも右系の人にも気に入らないところがあったのです。左の人からは、生まれながらにして良家であるというやっかみと、右の人からは7人の子供の上キャリアもあり、その上さらに幸せそうだという妬みありました。そんな嫌悪の念にもフォン・デア・ライエン氏は余裕をもって答えます。「そうですね古い格言にありましたね。同情は味わわされる。嫉妬は獲得する、と。」
彼女自身が最初の子供を出産したのは29歳の時でした。彼女はそれこそ医者として新人でこれから仕事が出来るという時だったので、妊娠したときは仕事ができなくなることを残念に思ったそうです。それに子供がいて仕事をつづけると出られない会議があったり、同僚に気を使ったりとするので仕事をやめることに。一番の思いは、子供を自分たちが作ったのだからその子供達をどうして仕事のためにだれかに預けなければならないのだろう、ということだったそうです。5人の子供(その内1組の双子あり)を6年のうちに生み、子供を問題としてではなくある現象としてとらえて望んだそうです。そして、子供がいるからなにもできないのではなく、子供があることでなにかよい経験をもつ人物だととらえられて仕事があると思ったそうです。
その後、ゆっくりとではありますが、図書館などに通い専門性のある医学について勉強し、インターネットで講師ができる職につき、まさに子供を膝にかかえながら仕事をしていたといいます。後には父親と同じような政治家になる道に進む事になるのですが、メルケル政権での家族・高齢者・婦人・青少年省、大臣という地位は彼女が7人の子持ちだったから獲得したものだったでしょう。
フォン・デア・ライエン氏は家庭省の在任中に、児童ポルノのインターネット規制の強化について強く訴えたり、保育所の増大を訴えたりしました。また制度改正としては1986年からあった養育補助金制度を廃止して2007年より新しく、子供手当を導入しました。これは親に政府から子供が生まれてから12ヶ月支給される援助金で親の収入によって額が違うものです。彼女は時に「ドイツの母」と言われるくらい、プライベートでもそして公的にも「母」として頂点にぼりつめていった人です。
◆その他の「ドイツの政治家」はこちら
≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏
≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの他の記事を読む
(1)ドイツ版、国民的アイドルは誰ですの?

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≫その3
(2)「借金からの脱出」借金解決請負人-ペーター・ツヴィーガート

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(3)ドイツの人気テレビ番組「ほんとうにほんとうの人生」

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(4)売れないレストラン再建!独TV番組「レストランテスター」
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(5)深夜のトーク番組「ドミアン」 ハロー、こちらドミアン!

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≫その3
(6)黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」

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≫その2
≫その3
(7)政治家シリーズ

≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏

≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏

≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
Posted by eしずおかコラム at 12:00