2013年05月08日
18.黒髪長身のスーパー教育アドバイザーが家庭訪問。「スーパーナニー」その2
「スーパーナニー」第1回を読む
現代の複雑な家族関係を見直すヒントになるお話がいっぱい。
女性教育アドバイザーのカタリーナ・ザールフランク、通称カティアの番組「スーパーナニー」。
この番組の話とは別ですが、ドイツでは戦後、第二次世界大戦に関する教育を徹底的に行ったため、戦前・戦中世代と戦後世代の分断が激しいといわれます。戦後世代は、ヒットラーの時代は自分たちとはまったく違う世代であるとして教育を受けてきました。それが、ドイツに伝わってきたものを受け入れないという方向に自然と繋がり、彼等は彼等で新時代を切り開かなければならなかったのかもしれません。
日本と同じで核家族が増え、離婚率も昔とは考えられないぐらいに増えています。若くして離婚した人が第二の人生のために新しいパートナーを見つけていくのも、昔には考えられなかったことでしょう。
家族構成も幅広くなってきました。そんな家族の関係を相談するには、ドイツではもうこの人しかいません。
カティア・ザールフランク。今回は、ベルリンのある家族を訪れることに。
家族のお母さんであるジェシカは27歳。息子ジェミーは5歳、娘サマンサは1歳半、彼氏のティムは25歳。彼氏との子どもを妊娠中で現在4ヶ月。息子と娘の父親がそれぞれ違い、生まれてくる子どもも父親が違うという、いわゆる「パッチワークファミリー」といわれるもの。お母さんのジェシカが、息子に困っているということでこの番組に応募しました。
息子のジェミーは、自分の意のままにならないときに暴力的になり、おもちゃを壊したり、妹を押し倒したり、お母さんにぶつかってきたり。ヒステリックになって泣き騒ぎ、それが止まらないといいます。対応に困ったジェシカは、キッチンにこもってタバコを吸うのが日課。
攻撃的な息子に比べ、妹のサマンサは女の子だからなのか聞き分けもよく、手がかからない。サマンサは時々父親に会うことができているけれど、ジェミーは父親に会えないでいる。
ジェシカの今の彼、ティムは6ヶ月前に出会って今ではこの家にいるので、二人の父親役となり、二人と遊んだり面倒をみてくれている。あと数ヶ月後には彼自身も本当の父親になる。
ジェシカは、この5歳の息子ジェミーが問題だと言いますが、さて、本当にそうなのでしょうか。
ここでカティアが登場です。
「カティア・ザールフランクです。どうぞよろしく。まずは家でどんな風にみんなが過ごしているか様子を見させてもらいますね。普段通りに過ごして。」
ジェシカ、ジェミー、サマンサがリビングでくつろいでいると、ジェミーが持っていた飲み物を床にこぼし始めました。それを見たジェシカはジェミーの腕をとって体ごと持ち上げ、「どうしてこういうことをするのよ!」と叫びながらリビングから連れ出し、彼を子供部屋に閉じ込めてしまいました。ジェミーは泣き叫び、怒りをあらわにする。ドアを開けようとするジェミー、力任せできつく締めるジェシカ。
そこでカティアが、「ちょっとやり過ぎよ、落ち着いて!」と待ったをかけます。
「ただいま」とティムが帰ってくる。子ども達は彼に寄っていき仲の良い様子。ティムが帰ってくると、ジェシカは子ども達のことを彼に任せるようになります。ティムは子ども達を抱いたり世話をしたりしますがあまり話しかけません。言葉のコミュニケーションが少ないのが気になるところ。
夜寝る前、ジェシカはジェミーにトイレに行くように言いますが、彼は尿意もないのにトイレに行く意味がわからず、その場に立っているだけ。それを見たジェシカは「行ってきて、やれ!」といってジェミーをトイレに連れて行きます。トイレのドアはしめられ、一人でやるまで出られないことに。「やれ!」という言葉がきつく、トイレから出てきたジェミーはすぐにそれを真似て、母親に「布団やったか。やれ!やれ!」と攻撃的な言葉をそのまま返します。これを聞いたジェシカは、ジェミーを力づくで部屋に入れる。布団に入れた後、ジェミーに「キスは!」というような調子で強要し、それを拒む息子に「じゃあおやすみ!愛しているわ」「おやすみママ、愛しているよ。このおしっこやろう」という息子。
ベッドに入ったものの、夜が深くなると寂しさも深まるのでしょうか、ジェミーはゴソゴソとベッドから抜け出します。両親はそれに気づかず、キッチンでタバコを吸っている。ジェシカはティムに子ども達を見てくるように言い、ティムが廊下で立っているジェミーを見つけると、捕まえてベッドに戻す。「明日はテレビもおやつもないよ」という言葉を残して。
ジェシカはそれらの物音を聞いているにもかかわらず、キッチンから出てきません。ジェシカは息子とコンタクトを持つことを避けているようだし、接し方も本当に冷たく、気持ちがないようです。
次の日、カティアはジェシカとティムの前で、今まで見てきたこと、この家で起こっていることを話す。ジェシカがカティアを呼んだ理由は「5歳の息子の悪態」でしたが、カティアが話し始めた最初の言葉は「5歳の息子の絶望」でした。
カティア 「私はこの短い間で、ジェミーがとても傷ついて深い絶望の中にいると感じたわ。一人にさせられたり、母親とコンタクトを持ちたいのに拒否されたり。そこで尋ねたいのは、どうしてあなたがこんな態度をとるのかということなのだけれど、どうかしら?」
ジェシカは5歳の息子が悪いと思っていたので、矛先が自分に向けられてきょとんとしています。
カティア 「あなたは息子を別の部屋に追いやったり、コンタクトを拒否したりしていますよね。子ども達といることがあまり楽しくないような感じですけれど、どうしてですか?」
こんな質問がくるとは思っていなかったジェシカ、「よくわかりません」。
ここでティムが報告します。 「もう一人子どもができる予定なのです」と。
それを聞いて驚くカティア、「子どもの前でタバコを吸うのも子ども達の健康によくないのに、妊娠がわかっていてタバコを吸うなんて」とショックを隠しきれない。
カティア 「子ども達に対して、特にジェミーに対してとても冷たくて、まるで気持ちが全然ないように見えるのだけれど、それはどうして?」
ジェシカ 「以前がっかりしたことがあって、それ以来気持ちを表現しなくなって。それから冷たくなったと思います」
カティア 「だれからの影響かしら?」
ジェシカ 「自分の母親とジェミーの父親。彼はとても暴力的だったので、ジェミーが私に暴力をふるうと彼のことをフラッシュバックのように思い出して辛い」
カティア 「子どもと昔の彼はちがうでしょう」
ジェシカ 「だけど、彼の子どもを自分の子どもとして受け入れることができなくなっているの」
カティア 「あなた本人の中に、大きな悲しみと絶望があるのね。あなたはジェミーを見て過去の嫌なことを思い出して辛くなるのでしょうけれど、ジェミーにはそれを変える事もできない。ジェミーはただ、母親がこっちを向いてくれなくて寂しいと思っているのよ」
カティアはカメラの前で語ります。 「ジェシカがどうジェミーを受け入れられるかにかかっています。今のこの状況がジェミーの目にどう映っているのかをジェシカが感じ取るができれば、うまい具合に展開するのではないでしょうか」。
そんな会話の後、ジェシカが子ども達とリビングで過ごしていると、ジェミーがなにかにまた怒り、コップに入っていたジュースを床中にばらまきました。それを見たジェシカは耐え切れず、ジェミーに怒鳴り散らします。カティアはそこを抑え、とにかく相手が怒りをぶつけてきても落ち着いて、自分でこぼしたものは、一緒に拭かせることをしてと言いますが、ジェシカはその言葉にも耳を貸しません。ジェミーはまた一人にされます。寂しい境遇におかれ、小さなジェミーの中に怒りが倍増されていきます。「おかんのバカやろう!」という言葉が飛んでくると、ジェシカはすかさず「バカなジェミー!」と返します。カティアは子どもの挑発には乗ってはいけないとし、母親から別の問いかけをして解決の糸口を探すように仕向けてほしいと言います。ようやく、ジェシカはジェミーに「何をして遊びたいの」と話題を変え、ジェミーはそれに答えていきます。
それでもカティアは静かにジェシカと二人だけで話す機会を持ちたいと思い、ジェシカを呼び出します。どうして自分の子どもに対して冷たくなってしまうのか、その根本の理由を聞いていきます。
カティア 「もう一度聞きますが、気持ちをまったく出せない原因はどこからきていると思いますか」
ジェシカ 「両親の離婚だと思います。母親は家を出たり入ったりしていましたから、父親と母親の真ん中に挟まれていてどうすることもできなかった。それに、母親から愛しているという言葉をかけてもらえなかった」
カティア 「あなたは私の話をちゃんと聞いているようですけど、感情までは届いてない感じですよね。どうしてでしょうか?」
ジェシカ 「聞いても、自分にとってはどうでもいいことに思えてしまうから。だから感情を閉じて、聞いているふりをしているんです」
カティア 「なにか自分の感情を開く事が怖いんですね。どうして怖いんですか?」
ジェシカ 「傷つくことを恐れていますね」
カティア 「あなたと話していると、感情までは届いていないことがわかります。子ども達にとってはもっと難しいですよね。あなたが感情の扉を閉めていると近寄りがたくなるし、それにも増してあなたは感情を閉じていく。過去に戻って変えることはできないけれど、現在の状況を変えることはできますよね。そのために、あなたの過去について知ることが大切です。過去を時効として扱うことが現在を変えることに役立つので、お話を聞かせてもらったわけです」
カティアは、ジェミーとの関係を修復するための立ち居振る舞いを教える前に、ジェシカ自身が感情を開くことが大切だと話します。
そしてジェシカに、カティアがこの家を訪問したときに撮ったビデオの映像を見せます。ちょうど、寝る前におしっこにいかせようとしてジェミーをトイレに閉じ込めたシーン。飲み物をこぼしたジェミーを子供部屋に閉じ込めたシーン。これを見て、ジェシカは自分の行動を客観視できるようになったようです。とても悲しいといって、感情を露にします。
カティア 「これでは、まるであなたの受けてきた親子関係よ。それをそのままジェミーにやっているのよ」
映像を見たジェシカは、今息子に接している方法は、自分が母親から受けたものと全く同じであることに気づきます。
その後、カティアはジェシカの耳元に小さなスピーカーをつけてもらい、カメラチームを家に残して外に出ます。外でカティアがカメラの映像を見て、無線を使い、ジェシカの耳元に指示を出すといった具合です。
とにかく、ジェミーが興奮したり、怒りに満ちているようなときでも、子どもの態度にのらず落ち着いて行動するようにという指示です。テレビを見終わって「今日は終わりね」とベッドに連れていってからもジェミーは遊びたい様子。なかなか興奮がおさまらず、部屋をいったりきたりしていました。それでもカティアの指示に従い、なんとか時間をかけて寝かしつけるのに成功しました。
外にいたカティアが家にあがっていき、ジェシカが息子の態度に一つも怒らずに寝かしつけた事に対してとてもよくやったと誉め、成功の経験を作れたことにとても満足します。これからジェシカが心を開いて子ども達に接していくことを望み、番組は終わります。
1回の番組はこんな感じ。親が(特にお母さんが)この子が悪くてどうしようもないから、カティアに治す方法を教えてもらおうと思って応募するのです。しかし、カティアは大人の事情に注目していきます。また、ビデオ映像を見せることで、母親は自分が子どもにどんな態度をとっているのかを客観的に見ることができ、子どもの立場に立てるようになるようです。ほとんどの親が、このビデオを見てひどいと言い、感情的になって泣き出します。
カティアは、子どもが悪いのではなく、子どもとの関係の作り方を大人が知らないだけなのだと言い、どんな子どもとも関係性は築くことができるとします。例えそれが継母であっても、継父であっても。
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(7)政治家シリーズ

≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏

≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏

≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
現代の複雑な家族関係を見直すヒントになるお話がいっぱい。
女性教育アドバイザーのカタリーナ・ザールフランク、通称カティアの番組「スーパーナニー」。
この番組の話とは別ですが、ドイツでは戦後、第二次世界大戦に関する教育を徹底的に行ったため、戦前・戦中世代と戦後世代の分断が激しいといわれます。戦後世代は、ヒットラーの時代は自分たちとはまったく違う世代であるとして教育を受けてきました。それが、ドイツに伝わってきたものを受け入れないという方向に自然と繋がり、彼等は彼等で新時代を切り開かなければならなかったのかもしれません。
日本と同じで核家族が増え、離婚率も昔とは考えられないぐらいに増えています。若くして離婚した人が第二の人生のために新しいパートナーを見つけていくのも、昔には考えられなかったことでしょう。
家族構成も幅広くなってきました。そんな家族の関係を相談するには、ドイツではもうこの人しかいません。
カティア・ザールフランク。今回は、ベルリンのある家族を訪れることに。
家族のお母さんであるジェシカは27歳。息子ジェミーは5歳、娘サマンサは1歳半、彼氏のティムは25歳。彼氏との子どもを妊娠中で現在4ヶ月。息子と娘の父親がそれぞれ違い、生まれてくる子どもも父親が違うという、いわゆる「パッチワークファミリー」といわれるもの。お母さんのジェシカが、息子に困っているということでこの番組に応募しました。
息子のジェミーは、自分の意のままにならないときに暴力的になり、おもちゃを壊したり、妹を押し倒したり、お母さんにぶつかってきたり。ヒステリックになって泣き騒ぎ、それが止まらないといいます。対応に困ったジェシカは、キッチンにこもってタバコを吸うのが日課。
攻撃的な息子に比べ、妹のサマンサは女の子だからなのか聞き分けもよく、手がかからない。サマンサは時々父親に会うことができているけれど、ジェミーは父親に会えないでいる。
ジェシカの今の彼、ティムは6ヶ月前に出会って今ではこの家にいるので、二人の父親役となり、二人と遊んだり面倒をみてくれている。あと数ヶ月後には彼自身も本当の父親になる。
ジェシカは、この5歳の息子ジェミーが問題だと言いますが、さて、本当にそうなのでしょうか。
ここでカティアが登場です。
「カティア・ザールフランクです。どうぞよろしく。まずは家でどんな風にみんなが過ごしているか様子を見させてもらいますね。普段通りに過ごして。」
ジェシカ、ジェミー、サマンサがリビングでくつろいでいると、ジェミーが持っていた飲み物を床にこぼし始めました。それを見たジェシカはジェミーの腕をとって体ごと持ち上げ、「どうしてこういうことをするのよ!」と叫びながらリビングから連れ出し、彼を子供部屋に閉じ込めてしまいました。ジェミーは泣き叫び、怒りをあらわにする。ドアを開けようとするジェミー、力任せできつく締めるジェシカ。
そこでカティアが、「ちょっとやり過ぎよ、落ち着いて!」と待ったをかけます。
「ただいま」とティムが帰ってくる。子ども達は彼に寄っていき仲の良い様子。ティムが帰ってくると、ジェシカは子ども達のことを彼に任せるようになります。ティムは子ども達を抱いたり世話をしたりしますがあまり話しかけません。言葉のコミュニケーションが少ないのが気になるところ。
夜寝る前、ジェシカはジェミーにトイレに行くように言いますが、彼は尿意もないのにトイレに行く意味がわからず、その場に立っているだけ。それを見たジェシカは「行ってきて、やれ!」といってジェミーをトイレに連れて行きます。トイレのドアはしめられ、一人でやるまで出られないことに。「やれ!」という言葉がきつく、トイレから出てきたジェミーはすぐにそれを真似て、母親に「布団やったか。やれ!やれ!」と攻撃的な言葉をそのまま返します。これを聞いたジェシカは、ジェミーを力づくで部屋に入れる。布団に入れた後、ジェミーに「キスは!」というような調子で強要し、それを拒む息子に「じゃあおやすみ!愛しているわ」「おやすみママ、愛しているよ。このおしっこやろう」という息子。
ベッドに入ったものの、夜が深くなると寂しさも深まるのでしょうか、ジェミーはゴソゴソとベッドから抜け出します。両親はそれに気づかず、キッチンでタバコを吸っている。ジェシカはティムに子ども達を見てくるように言い、ティムが廊下で立っているジェミーを見つけると、捕まえてベッドに戻す。「明日はテレビもおやつもないよ」という言葉を残して。
ジェシカはそれらの物音を聞いているにもかかわらず、キッチンから出てきません。ジェシカは息子とコンタクトを持つことを避けているようだし、接し方も本当に冷たく、気持ちがないようです。
次の日、カティアはジェシカとティムの前で、今まで見てきたこと、この家で起こっていることを話す。ジェシカがカティアを呼んだ理由は「5歳の息子の悪態」でしたが、カティアが話し始めた最初の言葉は「5歳の息子の絶望」でした。
カティア 「私はこの短い間で、ジェミーがとても傷ついて深い絶望の中にいると感じたわ。一人にさせられたり、母親とコンタクトを持ちたいのに拒否されたり。そこで尋ねたいのは、どうしてあなたがこんな態度をとるのかということなのだけれど、どうかしら?」
ジェシカは5歳の息子が悪いと思っていたので、矛先が自分に向けられてきょとんとしています。
カティア 「あなたは息子を別の部屋に追いやったり、コンタクトを拒否したりしていますよね。子ども達といることがあまり楽しくないような感じですけれど、どうしてですか?」
こんな質問がくるとは思っていなかったジェシカ、「よくわかりません」。
ここでティムが報告します。 「もう一人子どもができる予定なのです」と。
それを聞いて驚くカティア、「子どもの前でタバコを吸うのも子ども達の健康によくないのに、妊娠がわかっていてタバコを吸うなんて」とショックを隠しきれない。
カティア 「子ども達に対して、特にジェミーに対してとても冷たくて、まるで気持ちが全然ないように見えるのだけれど、それはどうして?」
ジェシカ 「以前がっかりしたことがあって、それ以来気持ちを表現しなくなって。それから冷たくなったと思います」
カティア 「だれからの影響かしら?」
ジェシカ 「自分の母親とジェミーの父親。彼はとても暴力的だったので、ジェミーが私に暴力をふるうと彼のことをフラッシュバックのように思い出して辛い」
カティア 「子どもと昔の彼はちがうでしょう」
ジェシカ 「だけど、彼の子どもを自分の子どもとして受け入れることができなくなっているの」
カティア 「あなた本人の中に、大きな悲しみと絶望があるのね。あなたはジェミーを見て過去の嫌なことを思い出して辛くなるのでしょうけれど、ジェミーにはそれを変える事もできない。ジェミーはただ、母親がこっちを向いてくれなくて寂しいと思っているのよ」
カティアはカメラの前で語ります。 「ジェシカがどうジェミーを受け入れられるかにかかっています。今のこの状況がジェミーの目にどう映っているのかをジェシカが感じ取るができれば、うまい具合に展開するのではないでしょうか」。
そんな会話の後、ジェシカが子ども達とリビングで過ごしていると、ジェミーがなにかにまた怒り、コップに入っていたジュースを床中にばらまきました。それを見たジェシカは耐え切れず、ジェミーに怒鳴り散らします。カティアはそこを抑え、とにかく相手が怒りをぶつけてきても落ち着いて、自分でこぼしたものは、一緒に拭かせることをしてと言いますが、ジェシカはその言葉にも耳を貸しません。ジェミーはまた一人にされます。寂しい境遇におかれ、小さなジェミーの中に怒りが倍増されていきます。「おかんのバカやろう!」という言葉が飛んでくると、ジェシカはすかさず「バカなジェミー!」と返します。カティアは子どもの挑発には乗ってはいけないとし、母親から別の問いかけをして解決の糸口を探すように仕向けてほしいと言います。ようやく、ジェシカはジェミーに「何をして遊びたいの」と話題を変え、ジェミーはそれに答えていきます。
それでもカティアは静かにジェシカと二人だけで話す機会を持ちたいと思い、ジェシカを呼び出します。どうして自分の子どもに対して冷たくなってしまうのか、その根本の理由を聞いていきます。
カティア 「もう一度聞きますが、気持ちをまったく出せない原因はどこからきていると思いますか」
ジェシカ 「両親の離婚だと思います。母親は家を出たり入ったりしていましたから、父親と母親の真ん中に挟まれていてどうすることもできなかった。それに、母親から愛しているという言葉をかけてもらえなかった」
カティア 「あなたは私の話をちゃんと聞いているようですけど、感情までは届いてない感じですよね。どうしてでしょうか?」
ジェシカ 「聞いても、自分にとってはどうでもいいことに思えてしまうから。だから感情を閉じて、聞いているふりをしているんです」
カティア 「なにか自分の感情を開く事が怖いんですね。どうして怖いんですか?」
ジェシカ 「傷つくことを恐れていますね」
カティア 「あなたと話していると、感情までは届いていないことがわかります。子ども達にとってはもっと難しいですよね。あなたが感情の扉を閉めていると近寄りがたくなるし、それにも増してあなたは感情を閉じていく。過去に戻って変えることはできないけれど、現在の状況を変えることはできますよね。そのために、あなたの過去について知ることが大切です。過去を時効として扱うことが現在を変えることに役立つので、お話を聞かせてもらったわけです」
カティアは、ジェミーとの関係を修復するための立ち居振る舞いを教える前に、ジェシカ自身が感情を開くことが大切だと話します。
そしてジェシカに、カティアがこの家を訪問したときに撮ったビデオの映像を見せます。ちょうど、寝る前におしっこにいかせようとしてジェミーをトイレに閉じ込めたシーン。飲み物をこぼしたジェミーを子供部屋に閉じ込めたシーン。これを見て、ジェシカは自分の行動を客観視できるようになったようです。とても悲しいといって、感情を露にします。
カティア 「これでは、まるであなたの受けてきた親子関係よ。それをそのままジェミーにやっているのよ」
映像を見たジェシカは、今息子に接している方法は、自分が母親から受けたものと全く同じであることに気づきます。
その後、カティアはジェシカの耳元に小さなスピーカーをつけてもらい、カメラチームを家に残して外に出ます。外でカティアがカメラの映像を見て、無線を使い、ジェシカの耳元に指示を出すといった具合です。
とにかく、ジェミーが興奮したり、怒りに満ちているようなときでも、子どもの態度にのらず落ち着いて行動するようにという指示です。テレビを見終わって「今日は終わりね」とベッドに連れていってからもジェミーは遊びたい様子。なかなか興奮がおさまらず、部屋をいったりきたりしていました。それでもカティアの指示に従い、なんとか時間をかけて寝かしつけるのに成功しました。
外にいたカティアが家にあがっていき、ジェシカが息子の態度に一つも怒らずに寝かしつけた事に対してとてもよくやったと誉め、成功の経験を作れたことにとても満足します。これからジェシカが心を開いて子ども達に接していくことを望み、番組は終わります。
1回の番組はこんな感じ。親が(特にお母さんが)この子が悪くてどうしようもないから、カティアに治す方法を教えてもらおうと思って応募するのです。しかし、カティアは大人の事情に注目していきます。また、ビデオ映像を見せることで、母親は自分が子どもにどんな態度をとっているのかを客観的に見ることができ、子どもの立場に立てるようになるようです。ほとんどの親が、このビデオを見てひどいと言い、感情的になって泣き出します。
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(2)「借金からの脱出」借金解決請負人-ペーター・ツヴィーガート

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≫その1
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(7)政治家シリーズ

≫「ドイツの母」フォン・デア・ライエン氏

≫「ドイツの右腕」ヴォルフガング・ショイブレ氏

≫「ドイツの首相」アンゲラ・メルケル氏
◆このコラムの著者、河村恵理さんのお話を、コラム「インタビュー・ノート」にて掲載しています。
河村さんのドイツでのお仕事、現在に至るまでの経緯などが語られています。
・前編 http://interview.eshizuoka.jp/e953874.html
・中編 http://interview.eshizuoka.jp/e956661.html
・後編 http://interview.eshizuoka.jp/e960315.html
Posted by eしずおかコラム at 12:00